2013年9月29日日曜日

第23回例会発表概要 小泉優莉菜

来る2013106日(日)に行われる日本音楽理論研究会第23回例会で発表する、小泉優里菜氏の発表概要を掲載いたします。

「長崎県生月島山田地区のかくれキリシタン―「唄おらしょ」とその音楽的事例研究―」

本発表は、2013318日~28日、62日~6日、98日~12日におこなった長崎県生月島山田地区のフィールドワークで採譜した「唄おらしょ(1)」を対象とし、この「かくれキリシタン信仰」の文化が現代の生活の中でどのような意味を持っているかを報告し、採譜した「唄おらしょ」を小泉文夫による日本音楽の理論(2)で分析・考察する。

 「唄おらしょ」の源流については、日本にはじめてキリスト教がもたらされた16世紀の聖歌にあることが、皆川達夫(3)によって明らかにされてきたが、「唄おらしょ」が根付いてきた風土について日本の文化的・民俗的背景からの研究はまだ十分とは言えない。「唄おらしょ」を「信仰の中の1つの行為」としてのみとらえるのではなく、「なぜ人は唄うのか」、「唄はどのように形成されてきたのか」を、民俗学的・宗教学的視点から考察する。

これまで、山田地区における≪御前様のお唄(ぐろりおざ)≫は、他の地区の「唄おらしょ」と同様に聖歌が変容したものであり、他方、≪地獄様のお唄(だんじく様のお唄)≫≪御前様のお唄(さんじゅわん様のお唄)≫の2曲は、「歌詞が日本語として理解できる」ということから、日本において潜伏期(4)に作られたと推定されてきたが、その経緯は信者間でも不明となっている。これを特定する更なる根拠を日本音楽の理論に求め、採譜した楽譜を分析・考察する。 

 この2曲が日本で作られた唄であるかどうか明らかにするために、この地に伝わる民謡の旋律やフレーズなどの音楽的特徴の類似性が存在するかどうか、採譜・分析を通じて明らかにすることを今後の課題とする。

 (1)
 「おらしょ」とはラテン語の「Oratio(祈り)」が日本語風に訛り生じた名称である。「おらっしょ」「おらっしゃ」「ごしょう」「もじゃもじゃ」など、様々な呼称があるが、本発表では「おらしょ」に名称を統一する。なお、「おらしょ」は旋律の付いていない「唱えごと」の部分を、「唄おらしょ」は最終部の旋律の付く部分を指す。
 (2)
  小泉文夫 『日本伝統音楽の研究』 音楽之友社:1958
 (3)
  皆川達夫 『洋楽渡来考』 日本キリスト教団出版局:2004『洋楽渡来考 CD&DVD版 解説書』 日本キリスト教団出版局:2006、『西洋音楽ふるさと行脚』 音楽之友社:1982 
 (4)
  カトリックが弾圧されていた15871873年のおよそ300年間。

0 件のコメント:

コメントを投稿