2013年9月29日日曜日

第23回例会発表概要 今野哲也

 来る2013106日(日)に行われる日本音楽理論研究会第23回例会で発表する、今野哲也氏の発表概要を掲載いたします。

 アルバン・ベルクの初期歌曲の「和声構造」
――調性および「無調性」の分析理論の批判と分析方法の試論を通して――

ベルクの95曲にも及ぶ歌曲の多くは、彼の最初の創作から、「無調性」へと至る時期に作曲されている。いわゆるベルクの「無調性」は「調性以降・音列技法以前」、つまり4つの歌曲》Op.2の第4曲「微風は暖かく」からと言われているが、段階的に歌曲を見てゆくと、調性との境界点が曖昧に思われてならない。換言すれば、語法上の相違は見られても、何らかの連続性があるように思われる。そして、そこに何か手掛かりがあるとすれば、彼が調性の和声技法にも通じていたことからも、「和声構造」ではないかと考える。

島岡譲は「和声分析がそのまま楽曲分析にほかならない」(『総合和声』1998: 1)と述べているが、この命題はミクロからマクロへ、つまり「和声」分析から「和声構造」へと理解が成される過程を示す言説と言える。その意味で、和声」分析はこの工程の基礎であり、「無調性」においてもなお重要である。そのためには「垂直」的次元を有する方法論が必要と考え、いくつかの理論を探求した結果、島岡譲の理論、ピッチクラス・セット理論(PCS)、そしてヒンデミットの理論(『楽曲作法教育理論編』19373つに絞られた。

島岡理論は「ゆれ」の概念を持つがゆえに、その射程は広範と言える。しかし「微風は暖かく」に関しては、多くの部分で分析が困難となる。PCS理論は合理的な発想を有するが、「和声構造」という観点において、使用を断念せざるを得なかった。ヒンデミットの理論では、従来の原理も保持しながら、独自の方法論が展開され、疑似的な意味ではあるが、「無調性」作品からも「和声構造」を導出し得る。そこで本研究はこの理論に立脚点を置くことが最適と判断した。但し、そこには多くの問題もあり、方策を講じる必要性が生じたため、独自の「集合音Zusammenklang」を導入した。「集合音」は個々の和音を捉えるための一種のコードである。PCS理論の数字表記が取り入れられるが、目的はヒンデミットの理論の分析精度を向上させることにある。

この方法論を《アルテンベルク歌曲集》Op.4に実践すると、「和音」の概念が保持され、「ゆれ」の概念も充分に適用し得ることが分かった。こうした結果を踏まえ、本研究は、調性から「無調性」へとスタイルの移行はあっても、ベルクの音楽の本質は一貫しており、作曲語法を越えた連続性が見出され得ると結論付ける。彼の「無調性」作品に関しては未だ、「垂直」的次元における魅力が解明されているとは言い難い。その意味で、この試みは小さな提案に過ぎないが、その領域において寄与できると考える。

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