2012年1月15日日曜日

第10回東京例会発表概要 福田由紀子

2012年3月25日(日)に行なわれる日本音楽理論研究会第10回東京例会の発表概要第1弾、福田由紀子さんの発表の紹介です。

「Debussyの音楽に見るぼかしの手法」 福田由紀子

今回取り上げる印象派のDebussyの作品・前奏曲集第2巻の「花火」は、調性音楽であるが、西洋音楽で一番重要な調性をわざとぼかしている。
ここで用いる「ぼかし」という言葉は「いい加減」という意味ではなく、多義的な曖昧性という意味である。具体的には調や和音が色々に解釈できるということである。
何故ぼかすのかといえば、印象派的な雰囲気を漂わせるためである。
durやmollを主体とする古典派やロマン派には、あまり見られない3全音調、半ずれ調、複調、教会旋法や5音音階、全音音階などの手法が「ぼかし」を増幅させている。
「花火」は「F-dur、Ges-dur、es-moll、Des-dur、b-moll・・・かもしれない」という多義的な曖昧性、いわゆる「ぼかし」から始まっているため、調の特定が難しく、最後になってようやく調の正体が判明するという、一種の謎解きのような面白さも持ち合わせている曲である。
調関係はシンメトリー構造になっていて、その上に花火に関する工夫がなされている。
ほとんどがVの和音 (V9 、下変V9 、下変V7の2転 、下変V7 、上変下変V9 等などVのオンパレードである。DebussyはⅤの第5音を半音上げ下げして、平凡でないドミナントの響きを好んでいることが分かる。) で書かれていて、Ⅰは解決する和音として最後に出てくるだけである。
Vの和音は緊張感を持っているので、「花火」の打ち上がる緊張をVで表現したのではないかと考える。
このような緻密な構成力と、調性の技術を駆使して「ぼかし」が成り立っていることを「花火」の分析を通して証明していく。