2012年12月9日日曜日

第11回東京例会発表概要 佐野光司

 来る2012年12月16日(日)に行なわれる日本音楽理論研究会第11回東京例会で発表する、佐野光司氏の発表概要を掲載いたします。

 「ベートーヴェンの「新しい道」とは、どのような手法を意味しているか」 佐野光司

 ベートーヴェンの音楽様式の区分について語られるとき、必ず引用される言葉はベートーヴェンが弟子のカール・チェルニーに語ったと伝えられる「新しい道」である。これはチェルニーによると1802年にベートーヴェンがチェルニーに語ったということでベートーヴェンの様式区分の第2期を1802年に求めようとすることが多い。

 ベートーヴェンの作品群ではピアノ・ソナタが最も連続して書かれているのでどの作品からを第2期とするかが問題となり、「新しい道」の発言が1802年ということで、その年に書かれたピアノ・ソナタでは《テンペスト》あたりからではないか、としばしば言われてきた。

 しかし、作曲家が自分の作法を新たにするとき、最初からその方法論を考案してから行うことはきわめて稀なことと言わねばならない。シェーンベルクの12音技法すら、突然現れたのではなく、12音技法完成の年とされる1921年以前に、6音の音列によって作曲された未完の《ヤコブの梯子》(1917)があり、そうした音体験の後に、12音技法が生れてきたのである。その意味ではスクリャービンの「神秘和音」も考案されて出てきたものではなく、彼の作品の過程の中での音体験から生れてきたもので、その命名もスクリャービンではなく、友人のサバニェーエフが、スクリャービンの《交響曲第5番「プロメテ」》(1910)の和音に付けた名前である。

 ベートーヴェンもみずから「新しい道」を見出して、その方向に向かって作曲を新たに開始した、と考えるのはあまりに短絡的であろう。むしろ自分の作曲した作品の中に、新たに今後の方向性を見出して、それを「新しい道」という表現で語ったと考える方が妥当だと私は考えている。

 ではどの作品の中にベートーヴェンは「新しい道」という概念を見出したと考えるべきだろうか。私はそれをピアノ・ソナタ第14番《月光》と考えている。ここには20世紀になって「音列技法」と呼ばれる作曲法の原点ともいうべきものがある。

 しかし、ベートーヴェンはそうした「音列」的な作曲法を押し進めたのではなく、さらに多様な方法論を身につけていくのだが、すくなくとも1801年~02年のピアノ・ソナタ、そしてヴァイオリン・ソナタ第9番《クロイツェル》(1803)、交響曲第5番(1808)、第9番(1824)などにその手法が見られる。

 12月16日にはそうした手法に至る以前のピアノ・ソナタから、いかにそこに至ったかについて話したいので、ベートーヴェンのピアノ・ソナタの《テンペスト》が入っているあたりまでの楽譜を持参して頂ければ幸いです。

第11回東京例会発表概要 大野聡

 来る2012年12月16日(日)に行なわれる日本音楽理論研究会第11回東京例会で発表する、大野聡氏の発表概要を掲載いたします。

 「単純な和声に支えられた単純な動機から作りだす壮大な展開(ドラマ)」 大野聡

 ベートーヴェンの音楽といえば今日クラシック音楽の代名詞のように扱われ偉大視されている。後の作曲家(ロマン派)への影響力もさることながら、時代や地域を超えて広く人々に訴えかけるからであろう。

 しかし彼の音楽は決して着想豊かとはいえない。旋律そのものが美しいとはいいがたく(主題は短い動機の積み重ね)、和声も後のロマン派音楽のような豊富な表現手段を持っているわけではない。

 要するにベートーヴェンは決して音楽の語彙が豊かとはいえないのだが、その少ない材料と限られた手段を逆手にとって訴えの強い音楽を作り出している。

 その強烈な音楽を構築するにあたって主に用いられているパターンが「ソナタ形式」(先人たちも活用し既に一般的な形式…彼は既成の形式の破壊者でも新たな形式の発明者でもない)である。ドラマティックな表現のために調性から必然的に生み出されたともいえる形式で最大の成果を引き出しているのは、やはり「調性」の持つ根源的な力を引き出し徹底的に活用しているからではないだろうか。

 ベートーヴェンの壮大な展開の仕掛けとして主題労作を駆使した手法が有名だが、ここではむしろ調性(和声)を基準に「単純さ」を追求している様子をたどっていきたい。単純明快な基盤があるからこそ、強烈な表現を盛り込め、広く訴えかける普遍性を獲得できたのではないかと思うからである。

 今回は特に「壮大なドラマ」が展開される中期作品のソナタ形式楽章から交響曲第3番変ホ長調Op/55(英雄)と弦楽四重奏曲第7番へ長調Op/59-1(ラズモフスキー第1)のそれぞれの第1楽章を追っていき、「単純な壮大さ」を確認していく。

2012年11月17日土曜日

日本音楽理論研究会第11回東京例会(12月16日)開催のお知らせ

Announcements
The 11th meeting of SMTJ Tokyo branch
16. December 2012

関係者各位

ここ東京では、乾燥した硬質な大気の向こう側に本格的な冬の到来の予感が満ちつつありますが、みなさまはいかがお過ごしでしょうか?
毎度お馴染み、日本音楽理論研究会第11回東京例会のお知らせです。

ベートーヴェンといえばクラシック音楽のほぼ代名詞でありますが、意外なことには今回、当会で初めて特集することになりました。2発表ともに主に、中期ベートーヴェンの作品を対象にした発表の予定です。発表概要は後日、本東京支部ブログに発表の予定ですので、対象作品等の確認をお願いいたします。

また、まったく偶然でありますが、開催日の12月16日はベートーヴェンの誕生日に当たりました。
みなさまとともに、242歳のベートーヴェンの生誕を祝えることができましたら幸いです。
みなさまの奮ってのご参加をお待ちしております。

なお、当日資料準備のため、ご出席の場合はご一報いただければありがたく存じます。
また研究会終了後、「シュベール国立店」で行なわれる懇親会は毎回議論が白熱しております。
こちらからのご参加も歓迎いたします。

★★★ 日本音楽理論研究会第11回東京例会のお知らせ ★★★
2012年12月16日(日) 12:30-17:40 (12:10 受付開始) 
会場: 国立音楽大学AI(アイ)スタジオ (JR国立駅南口下車、国立音楽大学付属幼稚園地下) 
〒186-0004 東京都国立市中1-8-25 TEL: 042-573-5633
参加費: 一般¥2000/学生¥1000
 
=ベートーヴェン特集=

■ (12:30-) 「単純な和声に支えられた単純な動機から作りだす壮大な展開(ドラマ)」
(ベートーヴェン《交響曲第3番》《弦楽四重奏曲第7番》の第一楽章) 大野聡

■ (15:00-) 「ベートーヴェンの新しい道」 佐野光司

※ 今後の活動予定 (会場はすべて「国立音楽大学AI(アイ)スタジオ」、参加費 ¥2000/学生¥1000) 
☆ 第12回東京例会
2013年3月31日(日) 13:30-17:30 
■ 「続・シューベルト『冬の旅』の裏物語--冥界のヘルメス」 浅田秀子 他未定
☆ 第22回例会
2013年5月19日(日) 13:30-17:40 =リヒャルト・ヴァーグナー生誕200年特集=
■ 「トリスタン和声が醸し出す妖しい響きについて」 見上潤 
■ 「ワーグナーにおけるドミナントの拡大について」 礒山雅
☆ 第23回例会
2013年10月6日(日) 13:30-17:40
内容未定
☆ 第13回東京例会
2013年12月15日(日) 時間未定
発表者募集中 

Tokyo branch of THE SOCIETY FOR MUSIC THEORY OF JAPAN
日本音楽理論研究会東京支部 (見上潤 Mikami Jun)
ブログ: The Society For Music Theory Of Japan, Tokyo http://smtjt.blogspot.com/
ホームページ: http://www.geocities.jp/dolcecanto2003jp/SMTJ/index.htm 

Secretariat of THE SOCIETY FOR MUSIC THEORY OF JAPAN
日本音楽理論研究会事務局(本部)
ホームページ:http://sound.jp/mtsj/
〒870-0833 大分市上野丘東1-11 大分県立芸術文化短期大学音楽科 小川研究室気付 
TEL &FAX 097-545-4429
Email: ogawa@oita-pjc.ac.jp
本部facebook: http://www.facebook.com/groups/205456326182727/

2012年10月10日水曜日

第21回例会終了!

ちょうど10年を迎えることになった第21回例会を無事終えることができました。多くの人たちに支えられて今日まで持続するに至りました。ここで、ご協力いただいたみなさまに深い感謝の意を表したいと思います。

今回は日本の民俗音楽およびポピュラー音楽に関する演題で、どちらも本研究会史上初のテーマで非常に興味深い世界が開かれました。

自分の興味をとことん追求しておられ、止むに止まれぬ演者の情熱が伝わってくる発表でした。フロアーとの相互コミュニケーションも活発な非常に質の高いプレゼンを提供していただいた川崎、川本両氏に研究会として心からの感謝の言葉を贈らせていただきます。

川崎瑞穂氏の発表は、民衆の異文化に対する反応を、幕末明治初期の洋楽受容に例を取り、レヴィ=ストロースの「器用仕事(ブリコラージュ)」という概念を用いて論じたものでした。具体的には日本人が初めて聞いたであろう西洋人の軍楽隊というものが、古来からの「お練り」の行列と結びついて、「おらんだ楽隊」のように民衆レベルで取り込まれたのではないか、という話でした。川崎氏自身による笛の演奏で旋律の例示がありました。

川本聡胤氏は、プログレッシブロックの代表作であるELPの《タルカス》が、いかに従来のロックの概念から外れているのかに着目し、その中に隠されたクラシックの影響を、異なる別のものが混じる際に、配合具合によって非常に違うものになる、という「間テキスト性の分析」という観点から論じたものでした。

当初、全く違うものかと思われた2題の演題でしたが、実は二つのものの混じりあいという共通のことを扱っており、演者同士もびっくりしておられました。

最後に、本研究会名物”ガチンコ対決”としましてELP《タルカス》の分析を見上が末席を汚させていただきました。一見するとロックだなあ、としか聞こえなかったこの曲が、さまざまな5音音階や教会旋法、美しい”五度の滝”などの反復進行の多用によって構成されていることが明らかになりました。

参加者は19名。設立当初より我々の研究を暖かく見守っていただいている島岡譲先生、楠瀬敏則先生をまじえ、13名が懇親会に参加し、途中席替えなどしながら、21時近くまで話が盛り上がりました。

以上、とりあえず簡単に例会の報告を終えます。

2012年10月3日水曜日

続報・日本音楽理論研究会第21回例会(10月7日)のお知らせ

第21回例会(10月7日)当日の時間配分、内容変更、ネット情報のご紹介をお知らせいたします。

★★★ 時間配分と内容変更
■ 13:30-14:30 「洋楽渡来と野生の思考(パンセ・ソバージュ) ―洋楽流入期における民俗的思考に関する構造人類学的研究―」 川崎瑞穂
■ 14:30-14:40 質疑応答
■ 14:40-15:00 休憩
■ 15:00-17:40 「プログレッシヴ・ロックの研究 ~ELP《タルカス》の分析~」 川本聡胤 (以下の時間配分は未定です。)
1.主発表者の発表
2.ガチンコ対決 「ELP《タルカス》をクラシック風に分析すると?」 見上潤
3.質疑応答を含むディスカッション

★★★ ネット情報のご紹介
今回とりあげる作品はこれまでの日本音楽理論研究会でなじみのないものなので、ネット上の情報を紹介させていただきます。
これによって当日のディスカッションが盛り上がることを願っております。
なお、最新の情報は以下のブログで公開しておりますので、ご確認ください。
http://smtjt.blogspot.com/
また、facebookに参加しておられる方は以下の日本音楽理論研究会facebookにもご参加ください。
http://www.facebook.com/groups/205456326182727/

★★ 《タルカス》についてのリンク紹介
★ 1. 音源: 非常に人気のある作品なのか、極めて多くの演奏・アレンジが存在します。そのうちほんの一部を紹介します。その他はリンクをたどって探してみてください。
1.1. フルヴァージョン: LPのA面、B面が入っている。第21回例会の分析対象はA面(最初の21分まで)のみ。
http://www.youtube.com/watch?v=2TACC1z7hcA&feature=related
1.2. 吉松隆のオーケストラ・アレンジ(ライブ): クラシック畑の人にはこちらのほうが聞きやすいかもしれません。これを聞くとブラスへのアレンジも合うと思う。
http://www.youtube.com/watch?v=81JaE2SDWe0
1.3. 吉松隆のオーケストラ・アレンジ(ライブ): TV収録版。
http://www.youtube.com/watch?v=eFz9XceS8TQ&feature=related
1.4. ピアノ・ソロ版: バロック風のインプロヴィゼーションもあったりで、かなりオリジナルな演奏。 
http://www.youtube.com/watch?v=HrXuvkj5Vi0&feature=related
1.5. EL&P TARKUS(1972.07.22 後楽園球場): 日本でも流行した当時の雰囲気が伝わってきます。
http://www.youtube.com/watch?v=2kq0rwgr0Ss&feature=fvwrel
★ 2. 楽譜: 当日発表資料として部分的に配布しますが、全曲を入手したい場合は以下からダウンロードしてください。
2.1. ピアノ・アレンジ楽譜(ドイツ語版ウィキペディアより): Klaviertranskription von Tarkus (PDF-Datei; 27,61 MB) ※ [Weblinks] [Note]にB面の曲の楽譜もあります。
http://www.exobit.org/~boo/ELP-DISC/Tarkus.pdf
★ 3. 歌詞: 非常に哲学的な内容も読み取れます。時代背景を前提としながら読むと考えさせられます。
3.1. プログレッシヴ・ロックの歌詞の対訳と非常に詳しい解説に限定したサイト。
http://proglyrics.blogspot.jp/2011/11/blog-post.html
★ 4. 解説:
4.1. ウィキペディア日本語版: 基本的情報はここから得られます。キース・エマーソンのトレード・マーク的な和音であり ELPっぽい音を狙ったとされる”ド・ファ・ソ・シb・ミb のコード”とは何かが今回のポイントのひとつになるかもしれません。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%83%AB%E3%82%AB%E3%82%B9
4.2. ウィキペディアドイツ語版: 他の言語版に比較して異様に詳しく、譜例入りの簡単な分析も入っている。楽譜のみならず映像のリンクも多数あり。現在翻訳作成中。
http://de.wikipedia.org/wiki/Tarkus

★★ 非常に簡単にですが、「おらんだ楽隊」についてのリンクもご紹介いたします。
★ 音源: 以下のYouTubeからご覧ください。
http://www.youtube.com/results?search_query=%e3%81%8a%e3%82%89%e3%82%93%e3%81%a0%e6%a5%bd%e9%9a%8a&utm_source=googletb

★★★ 日本音楽理論研究会第21回例会のお知らせ ★★★
日時: 2012年10月7日(日)13:30-17:40 (13:10 受付開始)
会場: 国立音楽大学AI(アイ)スタジオ (JR国立駅南口下車、国立音楽大学付属幼稚園地下) 
〒186-0004 東京都国立市中1-8-25 TEL: 042-573-5633
参加費: 一般¥2000/学生¥1000 
■ 「洋楽渡来と野生の思考(パンセ・ソバージュ) ―洋楽流入期における民俗的思考に関する構造人類学的研究―」 川崎瑞穂 
■ 「プログレッシヴ・ロックの研究 ~ELP《タルカス》の分析~」 川本聡胤
Secretariat of THE SOCIETY FOR MUSIC THEORY OF JAPAN
日本音楽理論研究会事務局(本部)
ホームページ:http://sound.jp/mtsj/
〒870-0833 大分市上野丘東1-11 大分県立芸術文化短期大学音楽科 小川研究室気付 
TEL &FAX 097-545-4429
Email: ogawa@oita-pjc.ac.jp
本部facebook: http://www.facebook.com/groups/205456326182727/
Tokyo branch of THE SOCIETY FOR MUSIC THEORY OF JAPAN
日本音楽理論研究会東京支部 (見上潤 Mikami Jun)
ブログ: The Society For Music Theory Of Japan, Tokyo http://smtjt.blogspot.com/
ホームページ: http://www.geocities.jp/dolcecanto2003jp/SMTJ/index.htm 

2012年9月21日金曜日

浅田秀子氏の著作要旨、オーストリアのweb雑誌に掲載される!

ヴィーンのフランツ・シューベルト・インスティテュートのweb雑誌「Sparks & Wiry Cries (火花と金切り声)」に、浅田秀子氏の著作『シューベルト「冬の旅――冥界のヘルメス」解釈と演奏法』の英訳要旨が掲載されました。これを機に優れた翻訳者が名乗り出てくれることを期待しているとのことです。

Sparks & Wiry Cries
http://www.sparksandwirycries.com/

2012年9月19日水曜日

第21回例会発表概要 川本聡胤

 来る2012年10月7日(日)に行なわれる日本音楽理論研究会第21回例会で発表する、川本聡胤氏の発表概要を掲載いたします。

  タルカス ―― プログレッシヴ・ロックの研究 川本聡胤

 1950年代中頃、若者の間で、ある新しいスタイルの音楽が生まれた。それは、駆り立てるようなリズムと、大音量のギターや電気的に増幅されたヴォーカルを特徴とし、また分かりやすい歌詞と、ブルーズ和声およびブルーズ形式に基づくもので、人々はそれを「ロックンロール」と呼んだ。ロックンロールは、ある意味で、大人の聴くクラシック音楽の対極に位置するものといえる。事実、クラシック音楽に見られるような込み入ったリズムや繊細な生楽器、文学的な歌詞と難解な和声や形式などは、ロックンロールには一切見られないからだ。ロックンロールという音楽は、その意味で、クラシック音楽に反抗して生まれた音楽といってもいい。

 ところが、1960年代末頃になると、次の世代の若手ロック・ミュージシャンたちは、もっと新しいタイプのロック音楽に飢えるようになった。彼らによると、ロック音楽というものは、クラシック音楽の対極というだけの位置付けに甘んじるべきではない。ロック音楽は、従来のロックンロールとクラシック音楽とを、より高いレベルで統合した、もっと包括的な音楽へと進歩(progress)するべきというのである。そして彼らは、ロックンロールの要素と、クラシック音楽の要素とを自由に織り交ぜた、新しいタイプの音楽を生み出した。それはプログレッシヴ・ロックと呼ばれ、1960年代末から1970年代末までの約10年間、ポピュラー音楽界を風靡した。しかも彼らの努力のおかげで、ロック音楽はその音楽語法を飛躍的に拡大することになり、その後のロック音楽は大いに多様化することになる。その意味で、ロック音楽史におけるプログレッシヴ・ロックの重要性は、計り知れないものがある。

 本発表では、以上の背景をふまえ、具体的な楽曲分析を通して、プログレッシヴ・ロックがクラシック音楽の要素をどのように取り入れたのかに関する考察を行う。特にここで分析作品として選んだのは、エマーソン・レイク・アンド・パーマー(ELP)による1972年作『タルカス』である。エドワード・マカンによれば、これはプログレッシヴ・ロックの4大傑作の1つである。またこの曲の中には、モーツァルトやベートーヴェン、ブラームスやワーグナー、そしてバルトークやストラヴィンスキーなどといった、古典派、ロマン派、20世紀のクラシック音楽の要素が見いだされる。これらがどのようにロック音楽的な要素と融合されているのかについて、本発表では、参加者とともに洗いざらい分析していくことができればと思う。

2012年9月7日金曜日

日本音楽理論研究会第21回例会(10月7日)開催のお知らせ

Announcements
The 21th meeting of SMTJ
7. October 2012

関係者各位
響き渡る蝉の声とともに東京は暑い夏が遠のきつつありますが、みなさまはいかがお過ごしでしょうか?
毎度お馴染みの日本音楽理論研究会第21回例会のお知らせです。

今回は、2発表ともに当研究会では初めてのジャンルで、まず、日本の民俗音楽への洋楽の影響を文化人類学の立場からの分析、次には、NHK大河ドラマ『平清盛』でも吉松隆によるオーケストラ版が使われているプログレッシヴ・ロックの代表的作品であるエマーソン・レイク&パーマーの《タルカス》の分析です。
自由なディスカッションの時間をゆったり取る予定ですので、みなさまの奮ってのご参加をお待ちしております。

なお、当日資料準備のため、ご出席の場合はご一報いただければありがたく存じます。
また研究会終了後、「シュベール国立店」で行なわれる懇親会は毎回議論が白熱しております。こちらからのご参加も歓迎いたします。

★★★ 日本音楽理論研究会第21回例会のお知らせ ★★★

日時: 2012年10月7日(日)13:30-17:40 (13:10 受付開始)
会場: 国立音楽大学AI(アイ)スタジオ (JR国立駅南口下車、国立音楽大学付属幼稚園地下) 
〒186-0004 東京都国立市中1-8-25 TEL: 042-573-5633
参加費: 一般¥2000/学生¥1000 

■ 「洋楽渡来と野生の思考(パンセ・ソバージュ) ―洋楽流入期における民俗的思考に関する構造人類学的研究―」 川崎瑞穂 

■ 「プログレッシヴ・ロックの研究 ~ELP《タルカス》の分析~」 川本聡胤

※ 今後の活動予定 (会場はすべて「国立音楽大学AI(アイ)スタジオ」、参加費 ¥2000/学生¥1000) 

☆ 第11回東京例会 2012年12月16日(日) 12:30-17:40 =ベートーヴェン特集=
■ (12:30-) 「単純な和声に支えられた単純な動機から作りだす壮大な展開(ドラマ)」 大野聡
■ (15:00-) 「ベートーヴェンの新しい道」 佐野光司

☆ 第12回東京例会 2013年3月24日(日) 13:30-17:30 
■ 「続・シューベルト『冬の旅』の裏物語--冥界のヘルメス」 浅田秀子 他未定

☆ 第22回例会 2013年5月19日(日) 13:30-17:40 
=リヒャルト・ヴァーグナー生誕200年特集=
■ 「トリスタン和声が醸し出す妖しい響きについて」 見上潤 
■ 「ワーグナーにおけるドミナントの拡大について」 礒山雅

Secretariat of THE SOCIETY FOR MUSIC THEORY OF JAPAN
日本音楽理論研究会事務局(本部)
ホームページ:http://sound.jp/mtsj/
〒870-0833 大分市上野丘東1-11 大分県立芸術文化短期大学音楽科 小川研究室気付 
TEL &FAX 097-545-4429
Email: ogawa@oita-pjc.ac.jp
本部facebook: http://www.facebook.com/groups/205456326182727/

Tokyo branch of THE SOCIETY FOR MUSIC THEORY OF JAPAN
日本音楽理論研究会東京支部 (見上潤 Mikami Jun)
ブログ: The Society For Music Theory Of Japan, Tokyo http://smtjt.blogspot.com/
ホームページ: http://www.geocities.jp/dolcecanto2003jp/SMTJ/index.htm 

2012年9月5日水曜日

第21回例会発表概要 川崎瑞穂

 来る2012年10月7日(日)に行なわれる日本音楽理論研究会第21回例会で発表する、川崎瑞穂氏の発表概要を掲載いたします。

               洋楽渡来と野生の思考(パンセ・ソバージュ)
 ― 洋楽流入期における民俗的思考に関する構造人類学的研究 ―   川﨑瑞穂

 私は「民俗芸能とその音楽に関する構造人類学的研究」というテーマの下、学部以来日本各地の民俗芸能を研究しており、「山林音神考――天狗信仰とその音楽に関する構造人類学的研究――」という卒業論文を執筆した。当論文の趣旨は、端的にいえば「民俗芸能における天狗舞の音楽の分析」である。実際にフィールドワークを行った10個の民俗芸能から、天狗面の演者が舞う演目(天狗舞)を取り出してその囃子を採譜・分析し、その音楽的諸特性が、天狗信仰の諸特性とどのような構造的連関を有しているのかを、二項対立を中心としたレヴィ=ストロースの構造分析理論を用いて研究したのが、この卒業論文であった。
 
 しかし、レヴィ=ストロースに代表される構造論的分析は、このような局所的なテーマのみに限らず、さらに多くの日本音楽の領野に応用可能なものである、と私は考えている。特に、構造論的観点からみると、幕末~明治にかけての日本の音楽受容は非常に興味深い。なぜならそこには、自らの文化的構造の範疇にない西洋という「他者」が、構造の中に侵入してくる際の、民俗的思考の反応がまざまざと表れているからである。

 本発表が求めるところは、そのような民衆の異文化に対する反応を、幕末~明治の洋楽受容の中に見る、ということにあり、そこでは無論、黒船来航とその音楽に接した人々の様子を文献上で拾い上げる作業も行われるが、今回はむしろ、西洋音楽が、日本の民間レベルの音楽実践にどのような影響を与えたのかということを、楽曲分析から考察した。事例としては、千葉県の香取神宮に伝承されている「おらんだ楽隊」と呼ばれる芸能を中心に採り上げたが、この芸能は、洋楽を既存の囃子に組み込むことで成立した、特殊な芸能である。分析の中で、この「おらんだ楽隊」という芸能の形態や、その囃子の音型には、民俗的思考の「洋楽」理解が反映されているのではないか、という仮説に到達した。今回はこの結果を、レヴィ=ストロースが野生の思考の特性として挙げる「ブリコラージュ」によって説明してみたい。

 本発表はその論を大きく2つに分ける。第1章では、洋楽に初めて接した人々の反応を通じて、洋楽流入における日本側の民俗的思考のあり様を描写する。第2章では、その洋楽を、日本の民間レベルではどのように捉え、それを享受したのかについて、「おらんだ楽隊」を中心に、今日伝承されている民俗芸能の分析を通して考察する。

2012年4月13日金曜日

日本音楽理論研究会第20回例会(5月13日)開催のお知らせ

Announcements
The 10th meeting of SMTJ Tokyo branch
25. March 2012

関係者各位

例年よりも遅く東京は桜がようやく散り始めました。みなさまはいかがお過ごしでしょうか?
シューベルト《冬の旅》特集2回目の第10回東京例会のお知らせです。

午前は、研究会メンバーによる《冬の旅》の演奏。午後は、ギリシャ神話の壮大なスケールのスペクタキュラーな裏物語が隠されていたことを解明する発表と、19回例会の島岡先生の発表の続きです。
みなさまの奮ってのご参加をお待ちしております。

なお、当日資料準備のため、ご出席の場合はご一報いただければありがたく存じます。
また研究会終了後、「シュベール国立店」で行なわれる懇親会は毎回議論が白熱しております。
こちらからのご参加も歓迎いたします。

★★★ 日本音楽理論研究会第20回例会のお知らせ ★★★

日時: 2012年5月13日(日)10:30-17:40 (10:10 受付開始)
会場: 国立音楽大学AI(アイ)スタジオ (JR国立駅南口下車、国立音楽大学付属幼稚園地下) 
〒186-0004 東京都国立市中1-8-25 TEL: 042-573-5633
参加費: 一般¥2000/学生¥1000 (午前・午後通し)

――続・詩と音楽から読み解くシューベルト《冬の旅》――

■ (10:30-) 特別演奏: Schubert 《Winterreise》 ソプラノ独唱: 小川えみ ピアノ: 見上潤 
■ (13:30-) 「シューベルト『冬の旅』の裏物語--冥界のヘルメス」 浅田秀子
■ (16:00-) 「続・音楽の言葉で読み解くシューベルト《冬の旅》」(第19回例会の続き) 島岡譲

※ 今後の活動予定 (会場はすべて「国立音楽大学AI(アイ)スタジオ」、参加費 ¥2000/学生¥1000) 

★ 第21回例会(10周年) 2012年10月7日(日) 13:30-17:40
川崎瑞穂 「洋楽渡来と野生の思考(パンセ・ソバージュ) ―洋楽流入期における民俗的思考に関する構造人類学的研究―」
川本聡胤 「プログレッシヴ・ロックの研究 ~ELP《タルカス》の分析~」

☆ 第11回東京例会 2012年12月16日(日) 12:30-17:40 ベートーヴェン特集
■ (12:30-) 「単純な和声に支えられた単純な動機から作りだす壮大な展開(ドラマ)」 大野聡
■ (15:00-) 「ベートーヴェンの新しい道」 佐野光司

☆ 第12回東京例会 2013年3月24日(日) 13:30-17:30 
「続・シューベルト『冬の旅』の裏物語--冥界のヘルメス」 浅田秀子

Tokyo branch of THE SOCIETY FOR MUSIC THEORY OF JAPAN
日本音楽理論研究会東京支部 (見上潤 Mikami Jun)
ブログ: The Society For Music Theory Of Japan, Tokyo http://smtjt.blogspot.com/
ホームページ: http://www.geocities.jp/dolcecanto2003jp/SMTJ/index.htm 

Secretariat of THE SOCIETY FOR MUSIC THEORY OF JAPAN
日本音楽理論研究会事務局(本部)
ホームページ:http://sound.jp/mtsj/
〒870-0833 大分市上野丘東1-11 大分県立芸術文化短期大学音楽科 小川研究室気付 
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第20回例会発表概要 浅田秀子

2012年5月13日(日)に行なわれる日本音楽理論研究会第20回例会の発表概要、浅田秀子さんの発表の紹介です。

【タイトル】「シューベルト『冬の旅』の裏物語--冥界のヘルメス」

【概要】ヴィルヘルム・ミュラー作詩、フランツ・シューベルト作曲の歌曲集「冬の旅」は、これまで詩の内容が暗くて変化に乏しく、意味不明の言葉や表現があって「難解」と思われており、解釈者によってさまざまな憶測や自由連想を生む原因となってきた。

しかし、この「難解」な原詩は、実は表面上の単調で月並みな物語の裏に、発音の類似した語句を掛詞ないし地口のように使って、まったく別の物語を隠していたのである。裏物語のためにその発音の語を使わなければならないという制約から、意味的に不自然だったり押韻の規則を破ったりせざるを得なかったわけで、ミュラーが3流詩人だからいい加減な詩しか書けなかったという批判は不当そのものである。

その隠された裏物語とは、ギリシャ神話世界である。主人公は旅・交易・盗みの神ヘルメスで、冥界の王ハーデスに誘拐されて女王となっているペルセポネに冥界へ求婚しに行き、一度は連れ帰ることができたが、結局去勢され重傷を負って、オリュンポス3大神に見取られながら死んでしまい、死後エリュシオンの野に再生すること、そしてヘルメスのより古い神話での神プリアポスとヘルメー像の中で合体するという、神話世界の歴史を往還する壮大のスケールのスペクタキュラーな物語である。

今回の発表では、まずタイトルがなぜ「冬の旅」なのか、という点から出発する。ミュラーの詩の下敷きとなったウーラント作詩、クロイツァー作曲の「9つのさすらいのうた」を紹介するとともに、この第8曲から本歌取りされて「冬の旅」ができていること、ウーラントの詩自体もギリシャ神話に基づいていることを説明する。

次に、「冬の旅」に関連の深いギリシャ神話を資料とともに紹介し、予備知識を得たところで、第1曲から順に「冬の旅」の裏物語を、時間の許すかぎりたどっていくことになる。

内容は主に原詩についての解釈で、シューベルトの改変や作曲にもヒントをもらいながら、ミュラーの表そうとした詩世界の玄妙さを受講者の方にもぜひ味わっていただきたいと思う。

【担当】日本語コスモス代表、日本大学非常勤講師 浅田秀子(辞書編集者、日本語研究者、日本語教師、メゾ・ソプラノ歌手)

2012年3月2日金曜日

日本音楽理論研究会第10回東京例会(3月25日)開催のお知らせ

Announcements
The 10th meeting of SMTJ Tokyo branch
25. March 2012

関係者各位

みなさまはいかがお過ごしでしょうか?
ショパン、ドビュッシー、ベルクを分析する第10回東京例会のお知らせです。
今回は、「ピアノ演奏法とアナリーゼ」、「近代和声の徹底調性分析」、「無調作品のアナリーゼ」の3つテーマです。
みなさまの奮ってのご参加をお待ちしております。

なお、当日資料準備のため、ご出席の場合はご一報いただければありがたく存じます。
また研究会終了後、午後6時より「シュベール国立店」にて懇親会を予定しています。こちらへも奮ってご参加ください。

★★★ 日本音楽理論研究会第10回東京例会のお知らせ ★★★
日時: 2012年3月25日(日)12:30-17:40
会場: 国立音楽大学AI(アイ)スタジオ (JR国立駅南口下車、国立音楽大学付属幼稚園地下) 
〒186-0004 東京都国立市中1-8-25 TEL: 042-573-5633
参加費: 一般¥2000/学生¥1000
■ (12:30-) 「続・ピアノの性能と演奏時の身体性を考慮した音楽分析――ショパン《練習曲集》作品10-1 C-dur、及び作品 25-12 c-mollの理想的な演奏再構築のために――」 横山聡
■ (14:15-) 「Debussyの音楽に見るぼかしの技法」(前奏曲集第2巻「花火」の分析) 福田由紀子
■ (16:00-) 「楽曲分析:アルバン・ベルク《抒情組曲》から第Ⅵ楽章(声楽版)――象徴・音列の観点を中心に――」 今野哲也
演奏: ソプラノ独唱: 小川えみ ピアノ: 見上潤
※ 各発表80分、質疑応答10分

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※ 今後の活動予定 (会場はすべて「国立音楽大学AI(アイ)スタジオ」、参加費 ¥2000/学生¥1000) 

★ 第20回例会
2012年5月13日(日) 10:30-17:40
――続・詩と音楽から読み解くシューベルト《冬の旅》――
■ (10:30-) 特別演奏: Schubert 《Winterreise》 ソプラノ独唱: 小川えみ ピアノ: 見上潤 
■ (13:30-) 「シューベルト『冬の旅』の裏物語--冥界のヘルメス」 浅田秀子
■ (16:00-) 「続・音楽の言葉で読み解くシューベルト《冬の旅》」(第19回例会の続き) 島岡譲

★ 第21回例会(10周年)
2012年10月7日(日) 内容未定

☆ 第11回東京例会
2012年12月16日(日) 12:30-17:40 ベートーヴェン特集
■ (12:30-) 「単純な和声に支えられた単純な動機から作りだす壮大な展開(ドラマ)」 大野聡
■ (15:00-) 「ベートーヴェンの新しい道」 佐野光司

☆ 第12回東京例会
2013年3月予定

Tokyo branch of THE SOCIETY FOR MUSIC THEORY OF JAPAN
日本音楽理論研究会東京支部 (見上潤 Mikami Jun)
ブログ: The Society For Music Theory Of Japan, Tokyo http://smtjt.blogspot.com/
ホームページ: http://www.geocities.jp/dolcecanto2003jp/SMTJ/index.htm 

Secretariat of THE SOCIETY FOR MUSIC THEORY OF JAPAN
日本音楽理論研究会事務局(本部)
ホームページ:http://sound.jp/mtsj/
〒870-0833 大分市上野丘東1-11 大分県立芸術文化短期大学音楽科 小川研究室気付 
TEL &FAX 097-545-4429
Email: ogawa@oita-pjc.ac.jp
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2012年2月20日月曜日

第10回東京例会発表概要 今野哲也

2012年3月25日(日)に行なわれる日本音楽理論研究会第10回東京例会の発表概要第2弾、今野哲也さんの発表の紹介です。

 楽曲分析:アルバン・ベルク《抒情組曲》から第Ⅵ楽章(声楽版)――象徴・音列の観点を中心に―― 今野哲也

 アルバン・ベルク(Alban Berg 1885-1935)の死後、妻ヘレーネ(Helene Berg 1885-1976)によって、彼の遺稿はオーストリア国立図書館(Österreichische Nationalbibliothek)に寄贈された。その資料に基づくパール(George Perle 1915-2009)らの研究によって、《抒情組曲 Lyrische Suite》(1925-6)は生涯人目を忍びながら愛し合ったハンナ・フックス夫人(Hanna Fuchs-Robettin 1896-1964)のために作曲された作品で、特にその第Ⅵ楽章には「歌」が隠されていた事が明らかにされた。歌詞は、ボードレール(Charles Baudelaire 1821-1867)の『悪の華Les fleurs du mal』の「憂愁と理想Spleen et Idéal」から「深淵より叫ぶDe profundis clamavi」が選ばれているが、実際にテクストとして用いられているのは、フランス語の原詩ではなく、ゲオルゲ(Stefan George 1868-1933)によるドイツ語訳である。ゲオルゲは『悪の華』第三版(1868)を底本とし、1891年には私家版として、いくつかの訳詩を世に出しているが、個別の作品の翻訳年は不明とされている。しかし、こうした事が明らかにされた現在においても、作曲者にそれを公表する意志が無かった事もあり、一般には、声楽付きの第Ⅵ楽章(以下、たんに第Ⅵ楽章)が正当な作品として位置付けが成されているとは言い難い。しかし本発表では、敢えて第Ⅵ楽章を取り上げ、歌詞も手掛かりとしながら、音楽理論の観点から楽曲分析を行う事を目的とする。
 《抒情組曲》で用いられる象徴や引用については、さまざまな先行研究でも指摘されている。例えば、ベルクの頭文字[A]lban [B]ergとハンナの頭文字[H]anna [F]uchsは重要であるし、数字の象徴(ベルクは“23”、ハンナは“10”)はテンポ数や小節数にも用いられる。ヴァーグナー(Richard Wagner 1813-83)《トリスタンとイゾルデ Tristan und Isolde》(1857-59)からの引用も印象的である。また、音楽的な観点から幾つか特徴を挙げるならば、①音列の恣意的な使用、②(広義の意味の)無調性と調性の要素との極端な対比などであろう。たとえば、第Ⅵ楽章は12音技法で書かれているが、音列を柔軟に扱う事によって、ひびきを操作しようとする意図も見出される。ベルクの手稿を基に作成した音列分析を示し考察を進める。
 ところで、第Ⅵ楽章の和音や和声について考察を始めると、「無調性や音列技法による作品に和声の概念が成り立ち得るか」という、困難な問題に直面せざるを得ない。ヒンデミット(Paul Hindemith 1895-1963)を始め、パーシケッティ(Vincent Persichetti 1915-1987)、あるいはフォート(Allen Forte 1926-)といった古今の作曲家・理論家の著作では非常に興味深い試みが展開されているが、全てにおいて成功しているとは言い難い。本発表では、この点についても問題提起を試みる。

2012年1月15日日曜日

第10回東京例会発表概要 福田由紀子

2012年3月25日(日)に行なわれる日本音楽理論研究会第10回東京例会の発表概要第1弾、福田由紀子さんの発表の紹介です。

「Debussyの音楽に見るぼかしの手法」 福田由紀子

今回取り上げる印象派のDebussyの作品・前奏曲集第2巻の「花火」は、調性音楽であるが、西洋音楽で一番重要な調性をわざとぼかしている。
ここで用いる「ぼかし」という言葉は「いい加減」という意味ではなく、多義的な曖昧性という意味である。具体的には調や和音が色々に解釈できるということである。
何故ぼかすのかといえば、印象派的な雰囲気を漂わせるためである。
durやmollを主体とする古典派やロマン派には、あまり見られない3全音調、半ずれ調、複調、教会旋法や5音音階、全音音階などの手法が「ぼかし」を増幅させている。
「花火」は「F-dur、Ges-dur、es-moll、Des-dur、b-moll・・・かもしれない」という多義的な曖昧性、いわゆる「ぼかし」から始まっているため、調の特定が難しく、最後になってようやく調の正体が判明するという、一種の謎解きのような面白さも持ち合わせている曲である。
調関係はシンメトリー構造になっていて、その上に花火に関する工夫がなされている。
ほとんどがVの和音 (V9 、下変V9 、下変V7の2転 、下変V7 、上変下変V9 等などVのオンパレードである。DebussyはⅤの第5音を半音上げ下げして、平凡でないドミナントの響きを好んでいることが分かる。) で書かれていて、Ⅰは解決する和音として最後に出てくるだけである。
Vの和音は緊張感を持っているので、「花火」の打ち上がる緊張をVで表現したのではないかと考える。
このような緻密な構成力と、調性の技術を駆使して「ぼかし」が成り立っていることを「花火」の分析を通して証明していく。