2010年12月1日水曜日

第8回東京例会発表内容について2(横山聡)

横山聡: ピアノの性能と演奏時の身体性を考慮した音楽分析
――ショパン《練習曲集》作品10-1 C-durの理想的な演奏再構築のために―― 

【発表概要】

19世紀に作曲されたピアノ作品群は、楽器の技術革新に伴った作曲家独自のピアノ技法(語法)を大きく開花させた。これらの作品を分析するにあたって、従来の方法に加えて、ピアノという楽器の性能を理解するとともに、作曲過程に反映したであろうピアノ演奏時の指や身体の使い方にも注目し、より優れた演奏を実現するための楽曲分析の新たなアプローチを提案することが、本発表の目的である。

第1に、ピアノの性能の観点から、
(1)ピアノのインハーモシティー(ピアノの弦は理想的な倍音構成を生じない)による倍音系列との音高のギャップ。
(2) 打鍵の強弱による聴覚上の音の高さ知覚の微小変化の可能性。
(3) 和音構成音が白鍵/黒鍵に割り振られた際、鍵盤の凸凹の具合により自ずと生じやすい響きの相違。以上の実例を示す。

第2に、ピアノ演奏時の身体の使い方の観点から、ショパン『練習曲集』作品10-1、C durを例にあげ、具体的に分析する。
(1) 作品全体の和声分析を行う。
(2) 右手分散和音の音の配置、白鍵・黒鍵の配分などの点から、分散和音の弾きやすさ/弾きにくさが和声進行形成上の鍵につながることを示し、楽曲構造における演奏と作曲の相互作用について考察する。
(3) この作品の校訂者の一部が提案する指使い、左右振り分けなどの弾き方について考察する。

上記の観点から、平坦化を志向する従来のピアノ演奏法ではなく、「弾きにくさ」や「音型の違いによる凸凹」を考慮し、身体をコントロールし、理想的なピアノ演奏をいかに再構築するかを議論する。

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